1 — ある運送会社に届いた通知
ソウル近郊で運送会社を営む佐藤美咲は、ある朝、会社名義のトラックを運転していた従業員のキム・ジュンホが、荷台の貨物に覆いを掛けずに走行したとして罰金を科された、と報告を受けました。積み荷が走行中に落ちないよう覆いをすることは、道路交通上の基本的な安全措置です。ジュンホは違反を認め、個人として罰金を支払うことになりました。
ところが数日後、会社にも同じ違反を理由に罰金を科すという通知が届きます。佐藤は、運転手への安全教育を定期的に行い、出発前点検も指示していました。「会社は必要な指導をしていた。それでも、従業員が違反したというだけで会社まで処罰されるのだろうか」。彼女の疑問は、企業の責任と個人の責任をどう区別するかという、刑事法の根本に触れるものでした。
2 — 問われている法的な問題
中心となる問題は、従業員が会社の業務中に違反したという事実だけで、会社にも刑罰を科せるのかということです。会社自身に違反を防ぐ落ち度があったかを問わず、従業員の行為を理由に会社を処罰することは、韓国憲法上の「責任主義」に反しないのでしょうか。
3 — 韓国法が定めること
韓国の憲法秩序では、刑罰は、処罰される本人に帰属する責任を前提とします。他人の犯罪を理由に、本人の責任を問わず処罰することはできません。法人についても、従業員を雇っていたというだけで当然に刑事責任が生じるわけではありません。
問題となった旧道路交通法の規定は、法人の従業員などが業務に関して一定の交通違反をした場合、行為者に加えて法人にも罰金または科料を科すとしていました。しかし、その文言は、法人が違反を防ぐために必要な対応をしていたかどうかを処罰の条件としていませんでした。
従業員が業務上の違反をしたというだけで、法人自身の責任を問わずに刑罰を科す制度は、他人の犯罪について責任の有無を問わず処罰することになり、責任主義に反し得ます。
その後の道路交通法の両罰規定では、法人や個人事業主が違反を防ぐため、その業務に関して相当な注意と監督を尽くしていた場合には、事業者を処罰しないという例外が設けられています。つまり、事業者は従業員の行為について常に免責されるわけではありませんが、必要な予防措置を実際に講じていたかが判断の対象になります。
実務上は、次の点が重要です。
- 問題となった行為に、どの時点のどの法令が適用されるかを確かめる。
- 会社が安全教育、運行前の点検、積載確認などを具体的に実施していたかを整理する。
- 違憲とされた規定に基づいて罰金が確定している場合は、再審などの手続が可能かを検討する。
韓国憲法裁判所は、違憲と決定された刑罰法規について、原則としてその効力が遡って失われるとしています。ただし、過去に当該規定を合憲とした決定がある場合には、効力を失う時点に例外があります。
4 — 韓国の裁判所はどう考えるか
韓国の憲法裁判所は、2016年10月27日の決定で、従業員が業務に関して道路交通法違反をしたというだけで、法人自身の独立した責任を問わずに罰金を科す旧規定について、責任主義に反すると判断しました。従業員の犯罪を会社に結び付けるだけでは、会社を非難し、処罰する根拠として足りないという考え方です。
この考え方は、企業に対する処罰を一切認めないという意味ではありません。裁判所が重視するのは、法人に違反を防ぐための仕組みや監督上の落ち度があったか、また、適用される法律がその点を処罰の要件としているかです。安全規則を設けただけで実際の運用が伴っていなかった場合と、教育や点検を継続していた場合とでは、評価が異なり得ます。
5 — 佐藤の会社に当てはめると
佐藤の会社の問題を、順に見ていきましょう。
- まず、違反時期と適用条文を確認します。 会社に罰金を科す根拠が、責任を問わず処罰する旧規定なのか、それとも注意・監督を尽くした事業者を処罰しない例外を含む規定なのかで、結論は変わります。
- 旧規定が根拠なら、会社自身の落ち度を問わない処罰には重大な問題があります。 佐藤の会社が従業員を雇っていたことだけを理由に罰金を科すのであれば、憲法裁判所が示した責任主義の考え方に照らし、違憲とされた旧規定に基づく処罰に当たる可能性があります。
- 注意・監督を尽くした証拠を確保します。 佐藤が説明する安全教育や出発前点検について、実施記録、点検表、社内規程、従業員への通知などが残っているかが重要です。口頭で指示したという説明だけでは、実際に継続して監督していたことを示しにくい場合があります。
- 罰金がすでに確定していても、適用法と手続を確認します。 違憲とされた刑罰法規に基づいて有罪や罰金が確定している場合、再審を請求できる可能性があります。ただし、違憲判断が出たからといって、過去の罰金が自動的に取り消されたり返還されたりするわけではありません。事件の確定状況や適用条文を踏まえた手続が必要です。
したがって、ジュンホ個人の違反があったことと、会社も罰せられることは別の問題です。会社の責任を定める条文と、会社が違反防止のために実際に何をしていたかを、分けて検討しなければなりません。
6 — 結論:会社に罰金は科されるのか
佐藤の会社に対する結論は、適用された条文によって決まります。従業員の違反だけを理由に会社の責任を問わず処罰する旧規定に基づくのであれば、その規定は責任主義に反するとされたため、罰金について再審を求められる可能性があります。一方、相当な注意と監督を尽くした場合に事業者を処罰しないという規定が適用されるなら、佐藤の会社は教育や点検の記録を示し、処罰を免れるよう主張できます。
同じ状況に直面したときは、次の三点を実行してください。
- 罰金の根拠となった条文と違反時期を確認する。 条文の改正前後で、会社に適用される条件が違うことがあります。
- 安全教育や監督の証拠をすぐに保全する。 研修記録、点検表、社内連絡、積載確認の記録は、注意義務を尽くしたことを示す資料になり得ます。
- 処分が確定している場合は、韓国の弁護士に再審などの可否を早めに相談する。 違憲判断の効果は、適用された規定や手続の状況によって異なり、自動的な取消しを意味するものではありません。




















