1――人間の物語:ジユンが争った「一つ後の法律」

ハン・ジユンは、小さな食品輸入会社を経営していた。取引先への届出が期限に間に合わなかったとして、彼女は韓国の裁判所で処罰を求められることになった。ジユンは、届出義務に違反した場合に罰則を科す法律そのものが、事業者に過度な負担を課し、憲法に反すると考えた。

ところが、問題となった届出義務の条文は、彼女の行為のあとに改正されていた。事件に適用されるのは改正前の条文だが、ジユンが違憲審査を求めたのは、文言がほぼ同じ改正後の条文だった。彼女には、条文の内容が同じなら、どちらを対象にしても違いはないように思えた。

しかし裁判所にとっては、法律の内容が似ているかどうかだけでは足りない。今まさに審理している事件に、その条文が適用されるのか。そこが、違憲審査を始められるかどうかを左右する。

2――法的な問い:「裁判の前提性」とは何か

この物語の核心は、違憲かどうかを審査してもらう法律が、実際の裁判の結論に関係しているかという点にある。韓国法でいう「裁判の前提性」とは、単に当事者がその法律を不公平だと感じていることではない。法律が当該事件に適用され、その法律の合憲性によって判決の結論や法的な意味が変わりうることを指す。

3――韓国法が定めること

韓国憲法裁判所法第41条第1項は、裁判中の事件で法律の合憲性が判決の前提となるとき、担当裁判所が憲法裁判所に違憲審査を求められると定めている。申立ては裁判所の職権でも、当事者の申請を受けても行うことができる。

法律が憲法に違反するかどうかが裁判の前提となる場合、事件を担当する裁判所は、職権または当事者の申請により、憲法裁判所に違憲審査を求めることができる。

裁判の前提性があるかを考えるときは、主に次の点が問題になる。

  1. 審査対象が法律であること。 命令や規則の合憲性は、法律を対象とする違憲法律審判の対象ではない。こうした規範については、通常の裁判所が自ら判断することができる。
  2. その法律が係属中の事件に適用されること。 事件に適用されない条文を審査しても、当該裁判の結論には影響しない。
  3. 合憲性によって判決が変わりうること。 条文が違憲なら適用できず、判決の結論が変わる、または裁判の内容や効力について法的な意味が変わる必要がある。

このため、適用されるのが改正前の条文なのに、改正後の条文だけを審査対象にする申立ては、原則として前提性を欠く。内容が同じように見えても、裁判で適用される法規定と、憲法裁判所に審査を求めた規定が一致しているかは重要だ。また、審理の途中で対象条文が改正され、事件に適用されなくなった場合も、前提性が失われることがある。

申立ての時点で裁判の前提性があっても、その後に法律の改正などで前提性がなくなることがある。通常は審査を続ける根拠を失うが、憲法上の重要性などから例外的に審査の必要が認められる場合もある。

例外が認められうるのは、たとえば、重要な基本権に関わる問題の解明が憲法上きわめて重要である場合や、同じ侵害が繰り返されるおそれがあるのに、通常の裁判では審査の機会を得にくい場合である。ただし、これは前提性の要件を一般に不要とするものではない。申立て時には前提性があったことが、例外を考える出発点となる。

また、裁判所が違憲審査の申立てを退けた後、当事者が韓国憲法裁判所法第68条第2項に基づく憲法訴願を申し立てる場合にも、裁判の前提性が求められる。前提性が欠けていれば、違憲かどうかの実質的な審査に進まず、申立ては不適法として却下されうる。

4――韓国の裁判所はどう判断するか

裁判の前提性は、まず事件を担当する裁判所が、その事件にどの法律を適用するかを踏まえて判断する。憲法裁判所は、通常、担当裁判所による法律上の見解を尊重する。ただし、その見解が明らかに維持できない場合には、憲法裁判所が前提性を独自に調べることもある。

韓国の憲法裁判所は、前提性を欠く違憲審査の申立てを、本案の判断に入る前に不適法として却下してきた。ここでいう却下は、「その法律は合憲だ」と判断したという意味ではない。審査に必要な条件が満たされておらず、合憲か違憲かを判断する段階に至らなかった、という意味である。

裁判所は、当事者が問題視する法律と、実際に事件へ適用される法律との関係を慎重に確認する。改正前の条文が適用される事件で、同じ内容の改正後の条文を対象にした場合や、係属中の事件に適用されない条文を争った場合には、前提性が認められないことがある。反対に、裁判の途中で前提性が失われても、憲法上の重要性や侵害の反復のおそれなどから、例外的に判断を続ける必要が認められることもある。

5――ジユンの事件に当てはめる

ジユンの申立てがどう扱われるかは、次の順序で考えると分かりやすい。

  1. 事件に適用される条文を特定する。 ジユンの行為が改正前にあったため、裁判所は、経過規定なども確認したうえで、改正前の条文が事件に適用されると判断した。
  2. 審査を求めた条文と照らし合わせる。 ジユンが対象にしたのは改正後の条文だった。内容がほぼ同じであっても、彼女の事件に適用されるのは改正前の条文であり、両者は法律上別の規定である。
  3. 判決への影響を確認する。 改正後の条文が違憲だと判断されても、それだけで裁判所がジユンの事件に適用する改正前の条文を適用できなくなるとは限らない。したがって、申立ての対象とした規定の合憲性が判決の結論を左右するとはいえない。
  4. 前提性が欠ける場合の扱いを確認する。 ジユンの申立ては、改正後の条文が事件に適用されないため、裁判の前提性を欠くと判断される可能性が高い。その場合、憲法裁判所は条文の中身が憲法に合うかどうかを審査せず、申立てを却下することになる。

ジユンが争うべきなのは、事件に適用される改正前の条文だった。その条文が違憲であれば判決の結論や法的意味が変わる、と裁判所が判断すれば、違憲法律審判の前提性が認められ、憲法裁判所への提請につながる可能性がある。

6――結論:何が起きたのか、同じ立場なら何をすべきか

ジユンの主張には、法律の内容への疑問だけでなく、審査対象の選び方に問題があった。彼女が対象にしたのは、事件に適用される改正前の条文ではなく、改正後の条文だった。そのため裁判所は、違憲かどうかを判断する前提がないとして、申立てを退けることになる。これは、ジユンが指摘した問題が正しいと否定されたのではなく、対象と手続の要件が合っていなかったということだ。

同じような状況にある人は、次の点を確認してほしい。

  • 事件に適用される法令と条文の版を確かめる。 行為や処分の時期、改正法の施行日、経過規定を確認し、改正前後のどの条文が適用されるかを整理する。
  • 違憲判決が事件にどう影響するかを示す。 対象条文が違憲となった場合に、判決の結論や法的な意味が具体的にどう変わるのかを説明する。
  • 申立てを退けられた場合も、前提性を確認する。 第68条第2項の憲法訴願でも前提性は必要となる。期限や手続を含め、韓国法に詳しい専門家と相談し、適用条文と対象条文のずれがないかを確かめる。