1 — 人物から始まる物語

佐藤ジフンは、貨物車を運転して生計を立てていた。ある日、他人のトラックを盗んだとして警察の捜査を受け、刑事手続に加えて、保有していた第1種大型免許と第1種普通免許まで取り消された。ハンドルを握れなくなれば、仕事も収入も失う。ジフンにとって、免許取消しは単なる行政上の処分ではなかった。

当時の韓国の法律には、運転免許を持つ人が他人の自動車などを盗んだ場合、免許を必ず取り消すという規定があった。盗難車を運転すれば交通上の危険を招くおそれがある。その危険を防ぐという目的は理解できる。しかし、窃盗に至った経緯や行為の重大さがどれほど違っていても、結果は一律に免許取消しでよいのだろうか。

2 — 法的な問い

この事案の核心は、他人の自動車を盗んだ人について、事情を問わず運転免許を必ず取り消す制度が、韓国憲法上許されるかという点にある。特に問われたのは、交通の安全という公共の利益を守るために、職業の自由や一般的行動の自由をどこまで制限できるかである。

3 — 韓国法は何を定めていたのか

問題となったのは、2011年改正後、2016年改正前の旧道路交通法第93条第1項第12号のうち、他人の自動車などを盗んだ場合に関する部分である。この規定は、該当する窃盗があれば、行政庁が個別事情を考慮して免許を停止するか取消しにするかを選ぶのではなく、免許を必要的に取り消す仕組みだった。

韓国憲法裁判所は、この一律取消しの規定について、個々の事情を考慮する余地を一切設けない点が、職業の自由または一般的行動の自由を過度に制限すると判断した。

この判断を理解するうえで、次の区別が重要だ。

  • 刑事責任:自動車を盗んだ行為そのものについて、犯罪が成立するか、どのような刑事処分を受けるかという問題。
  • 免許に関する行政処分:その行為を理由に、運転免許を停止または取り消すべきかという別個の問題。
  • 比例性:制度の目的が正当でも、目的を達成するために必要以上の不利益を課していないかを問う考え方。

憲法裁判所は、窃盗行為への行政上の対応を強めること自体を否定したわけではない。違法性の程度に応じて免許停止や取消しを選べる、裁量的な制度でも交通安全の目的は達成できるのに、必ず取り消す制度では個別の事情を考慮できない、と問題視したのである。

4 — 韓国の裁判所はどう考えるのか

韓国の憲法審査では、公共の利益を守る規制であっても、個人の権利に課す負担が目的に比べて過大であれば、憲法上の問題となり得る。重要なのは、規制の目的だけでなく、より制限の小さい手段があるか、また個人ごとの事情を考慮できる仕組みがあるかである。

交通安全の確保は重要な公益である。しかし、そのために免許を取り消すとしても、犯罪の経緯や態様、違法性の程度などを全く考慮しない一律の制裁は、必要な範囲を超えることがある。

2017年5月25日、韓国憲法裁判所は、対象となった旧道路交通法の規定について、こうした一律の免許取消しが職業の自由または一般的行動の自由を侵害すると判断した(2016헌가6決定)。この判断は、車両窃盗が許されるという意味でも、窃盗をした人なら免許を取り消されないという意味でもない。問題とされたのは、事情を見ずに必ず取り消すという制度の設計である。

5 — ジフンのケースに当てはめる

ジフンの場合、車両を盗んだ行為についての刑事責任と、免許取消しの妥当性は分けて考える必要がある。仮に窃盗罪が成立するとしても、それだけで免許取消しが自動的に正当化されるわけではない。

判断にあたっては、少なくとも次のような事情が問題となる。

  1. 盗難に至った経緯:どのような状況で車両を持ち出したのか。
  2. 行為の態様と危険性:どのように車両を取得し、運転したのか。交通上の具体的な危険を生じさせたのか。
  3. 犯罪の重さと違法性の程度:行為の内容がどれほど重大だったのか。
  4. 刑事手続の結果:刑事処罰を受けたか、その内容はどうか。
  5. 免許取消しによる影響:免許が仕事や日常生活に及ぼす影響も、処分の重さを考える際の事情となり得る。

旧規定の問題は、こうした事情を行政庁が一切検討できず、窃盗に該当すれば必ず免許を取り消す点にあった。ジフンのように運転を職業としている人にとって、免許取消しは重大な不利益となる。しかも、その不利益の大きさに関係なく一律に科されるなら、交通安全の目的に必要な範囲を超えて自由を制限するおそれがある。

したがって、この憲法判断から導かれるのは、「窃盗があれば免許取消しはできない」という結論ではない。必ず取り消すと決めつけず、個別の事情に応じて処分を選ぶべきだということである。免許停止や取消しが選択される余地は残るが、処分の妥当性は具体的な事案に即して検討されなければならない。

6 — 結論:ジフンに何が起きたのか、同じ立場なら何をすべきか

ジフンの免許を、車両窃盗だけを理由に必ず取り消すことはできない。韓国憲法裁判所は、そのような自動的な取消しを定めた旧法の規定を、個別事情を考慮できない過度な制約として違憲と判断した。ただし、この判断によって刑事責任がなくなるわけでも、免許が必ず維持されるわけでもない。最終的な行政処分は、行為の内容や危険性などを踏まえて個別に判断される。

同じような処分を受けた場合は、次の点を確認したい。

  • 取消しの根拠と理由を確認する:どの法律のどの規定が使われたのか、処分通知書で確かめる。
  • 経緯を示す資料を保存する:行為の状況、車両の使用実態、刑事手続の結果など、個別事情を説明できる資料を集める。
  • 期限を逃さず専門家に相談する:行政不服申立てや訴訟には期限があるため、通知を受けたら早めに韓国の弁護士などへ相談する。

一律の制裁ではなく、具体的な行為に見合った判断を求めること。それが、交通安全という公益と、運転する人の自由の双方を守るための出発点となる。