1. ある冬の退勤後、会社前で声を上げたい人たち
ソウルのある会社で働く佐藤美咲は、同僚の金俊浩たちとともに、会社が突然打ち出した不利益な勤務方針に抗議する方法を考えていました。社内で何度も要望を伝えたものの、会社側の対応は変わりません。そこで彼らは、本社近くで屋外デモを行うことにしました。
ところが、準備を進めていたのは冬の平日です。退勤するころには、すでに日が暮れていました。美咲は、韓国の集会・示威に関する法律に「日の出前または日没後」の屋外集会やデモを禁止する規定があると知り、足を止めます。会社への抗議を続けたい一方、刑事罰を受ける危険があるなら、実施をためらわざるを得ません。
2. 問われるのは「日没後なら一律に禁止できるのか」
この事例の中心にあるのは、公共の秩序や住民の静穏を守るため、日没後のデモを一律に禁止し、違反者を処罰できるのかという問題です。とりわけ、冬の平日に働く人が、退勤後に集会やデモへ参加する道まで閉ざされることが、憲法上保障された集会の自由と両立するのかが問われます。
3. 韓国法が定めること
韓国の集会・示威に関する法律第10条は、屋外集会・デモを行える時間を制限し、一定の条件を満たす場合には例外的な許可を認める仕組みを置いていました。また、第23条は、第10条本文に違反した場合の処罰を定めていました。
第10条本文は、日の出前または日没後の屋外集会・デモを禁止する趣旨の規定です。もっとも、集会の性質上やむを得ず、主催者が秩序維持人を置いて事前に届け出た場合には、警察が秩序維持の条件を付して許可できる例外も定めていました。
憲法上、集会の自由は民主社会で意見を表明し、他者と連帯するための重要な権利です。一方、デモが公共の安全や秩序、周辺住民の生活に及ぼす影響を考慮し、一定の規制を設けること自体が直ちに許されないわけではありません。規制は、目的にかなうだけでなく、必要な範囲を超えて自由を狭めていないかも問われます。
韓国の憲法裁判所は、夜間のデモ禁止規定について、日没後から同じ日の24時までのデモに適用する限り、憲法に違反すると判断しました。これは規定全体を無効にするのではなく、違憲となる適用範囲を特定した「限定違憲」の判断です。
憲法裁判所は、日没後から同日24時までのデモに夜間禁止規定を適用することは、集会の自由を過度に制約するとしました。その範囲では、禁止規定と処罰規定は遡って効力を失います。
この判断を読む際には、次の点を区別する必要があります。
- 日没後から同日24時までのデモには、問題となった夜間禁止規定を適用できません。
- 判断は、夜間の規制をあらゆる時間帯について全面的に無効としたものではありません。
- その時間帯にデモを行う場合でも、事前届出など、別の法的要件や適用される規制を確認する必要があります。
4. 韓国の裁判所はどう考えるのか
韓国の憲法裁判所は、夜間には周囲の静穏を守る必要があり、デモの秩序維持が昼間より難しくなる場合もあるという点を認めました。夜間の集会を一定程度規制する目的そのものには、公共の秩序や市民の住居・私生活の平穏を保護するという正当性があり得ます。
しかし、裁判所は目的が正当であることだけで規制を認めるわけではありません。日没の時刻は季節によって大きく変わります。日が短い冬の平日には、会社員や学生が通常の生活を送るだけで、現実にはデモに参加しにくくなることがあります。都市化した社会では、日没後の時間すべてを、昼間とは明確に異なる危険な時間帯として扱うこともできません。
裁判所が重視したのは、夜間デモに一定の配慮が必要なことと、日没後の時間を一律に禁止することが正当化されるかは、別の問題だという点です。規制が必要な範囲を超えれば、集会の自由を侵害します。
そこで憲法裁判所は、夜間禁止規定に合憲となり得る部分と違憲となる部分がともに含まれていると整理しました。規定全体を適用不能にすると、より強い規制が必要な場面に対応できなくなるおそれがあるため、違憲性が明白な「日没後から同日24時まで」の適用に限って違憲と判断したのです。
5. 美咲たちの計画に当てはめる
美咲たちのケースを、判断の筋道に沿って見ていきましょう。
- デモを行う時間を確かめる。 彼らが考えているのは、冬の退勤後、日没後からその日の24時までに本社近くで行う屋外デモです。これは憲法裁判所が違憲とした時間帯に当たります。
- 禁止規定と処罰規定の適用を分けて考える。 第10条本文の夜間禁止規定をこの時間帯のデモに適用することは、違憲判断の対象です。その違反を処罰する第23条の規定も、同じ範囲では効力を失っています。したがって、美咲たちは、単に日没後にデモをしたという理由だけで、これらの規定に基づいて処罰されるものではありません。
- 「夜ならいつでもできる」とは考えない。 憲法裁判所が無効としたのは、日没後から同日24時までの適用です。日の出前や、24時を過ぎた時間帯まで同じ結論になると、この判断だけから断定することはできません。
- ほかの手続や規制を確認する。 夜間禁止規定の適用が否定されても、集会・デモに関する事前届出や、秩序維持のための条件などが不要になるわけではありません。集合場所や実施方法に関する別の規制に違反すれば、別の法的問題が生じる可能性があります。
つまり、美咲たちにとって重要なのは、日没後のデモそのものが一律に犯罪になるわけではないと理解したうえで、実施日時と場所を明確にし、必要な届出や安全対策を整えることです。
6. 結論――美咲たちはどうなったのか、何を確認すべきか
美咲たちは、予定していたデモを日没後から同日24時までの時間帯に設定し、適用される届出手続や秩序維持に関する条件を事前に確認しました。そのうえで、夜間禁止規定に違反するという理由だけで処罰されることを恐れて、抗議をあきらめる必要はありませんでした。憲法裁判所の判断は、働く人が退勤後に意見を表明する余地を守る一方、夜間の集会に伴う秩序維持の問題まで消し去ったわけではないからです。
同じような状況にある人は、次の点を実務上の出発点にしてください。
- 時間帯を正確に確認する。 日没後から同日24時までの判断を、それ以外の時間にもそのまま当てはめないでください。
- 事前届出と実施条件を調べる。 夜間禁止規定とは別の手続や、警察から示される秩序維持上の条件がないか確認しましょう。
- 記録と相談先を準備する。 届出書類や警察とのやり取りを保管し、場所・日時・運営方法に不明点があれば、実施前に韓国の弁護士や適切な相談窓口に確認してください。



















