外資系オフィスに流れる「独自のルール」という違和感
ソウルの中心部、江南(カンナム)にあるフランス系デザイン会社に勤めるキム・ミンホさんは、最近深い悩みに直面していました。この会社は、代表であるフランス人のジュリアン氏を含め、計10人の小規模なチームで構成されています。自由でクリエイティブな社風に惹かれて入社したミンホさんでしたが、プロジェクトが佳境に入ると、深夜までの残業や休日出勤が当たり前のように求められるようになりました。
ある日、ミンホさんが勇気を出して残業代について尋ねると、ジュリアン代表は肩をすくめてこう言いました。「ミンホ、うちはフランス系の会社だし、僕の経営スタイルはヨーロッパ式だ。韓国の細かい労働法をいちいち気にしていては、クリエイティブな仕事はできないよ。ここでは僕たちのルールが優先されるんだ」。ミンホさんは、外国人経営者の会社であれば、韓国の労働基準法は二の次になってしまうのかと、強い不安を覚えました。
焦点となる法的な疑問
ミンホさんのケースにおいて、最も重要な法的論点は、「外国人や外国法人が経営する、韓国国内の事業場において、韓国の『労働基準法』は適用されるのか」という点です。
韓国の法律が定める適用範囲
韓国の労働基準法は、その適用範囲について明確に定めています。重要なのは、経営者の国籍ではなく、その「事業」がどこで行われているかという点です。
労働基準法 第11条 第1項「この法律は、常時5人以上の労働者を使用するすべての事業または事業場に適用する。」
この規定に基づき、韓国の労働法が適用される基準は以下の通りです:
- 属地主義の原則: 韓国の統治権が及ぶ国内で運営される事業場であれば、経営者が外国人であっても、法人が外国籍であっても、韓国の労働基準法を遵守する義務があります。
- 常時5人以上の基準: 正社員だけでなく、必要に応じて雇用される日雇い労働者も含め、一定期間の平均人数が5人以上であれば適用対象となります。
- 除外対象: ただし、同居の親族のみを使用する事業や、家事使用人(家政婦など)については、特殊性を考慮して適用対象外とされています。
韓国裁判所のアプローチ
韓国の裁判所は、労働基準法の適用について「事業」の概念を弾力的に解釈しています。裁判例(大法院 1979. 3. 27. 宣告 78ダ163判決など)によれば、国や地方自治体による事業はもちろん、宗教団体や社会福祉団体、そして外国企業であっても、韓国国内で韓国人労働者を雇用して使用者の地位にある限り、例外なく労働基準法上の義務を履行しなければならないとしています。
また、海外に拠点を置く企業については原則として適用されませんが、韓国国内に本社があり、そこから海外支店に派遣された労働者の場合には、韓国の労働法および産業災害補償保険法が適用されるという判断を示しています。
ミンホさんのケースへのあてはめ
ミンホさんが勤めるデザイン会社は、従業員が10人であり、「常時5人以上」という基準を十分に満たしています。また、代表がフランス人であり社風がヨーロッパ式であったとしても、その事業はソウルの江南、つまり韓国国内で行われています。
したがって、ジュリアン代表の「うちはフランス系だから韓国の労働法は関係ない」という主張は、法的に全く認められません。この会社は、労働基準法が定める労働時間、残業手当の支払い、解雇の制限などの規定をすべて遵守しなければなりません。ミンホさんは、正当に残業代を請求する権利があり、会社がこれを拒否することは明白な法違反となります。
結論:法的権利を守るためにすべきこと
最終的に、ミンホさんは専門家の助言を受け、会社の出退勤記録を整理して労働当局に相談することを決めました。その結果、ジュリアン代表も韓国の法律を無視することはできないと悟り、未払いだった残業代の支払いと、法に基づいた労働環境の改善を約束しました。
もし、あなたが外資系企業や外国人経営者のもとで「ここは特別だから」と言われ、不当な待遇を受けているなら、以下のステップを検討してください:
- 証拠の確保: 外国人経営の会社であっても、契約書や勤務実態(タイムカード、メールの送信履歴など)を確実に保管しましょう。
- 属地主義を念頭に: 「韓国国内にある事業場」であれば、原則として韓国法が守ってくれるという自信を持ってください。
- 公的機関の活用: 雇用労働部の地方労働庁への申告や、労働委員会への救済申請は、会社の国籍に関わらず有効な法的手段です。
韓国の労働基準法は、国籍を問わず、この地で働くすべての労働者の権利を守るための盾なのです。
--- このコラムは、一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言に代わるものではありません。具体的な事案については、必ず法的な専門家にご相談ください。




















