第1節:田中さんの「年俸制」への戸惑い
ソウルにあるIT企業で5年間勤務している田中さんは、最近会社から新しい労働契約書を提示されました。これまでの「月給+ボーナス」という形式から、年間の総額を決定して12分割で支払う「年俸制」への変更でした。
新しい契約書を見ると、以前は個別に支払われていた基本給、役職手当、家族手当、さらには年間の賞与までがすべて「基本年俸」という一つの枠組みに統合されていました。田中さんは、月々の手取り額が安定することには安心しましたが、ふとした疑問が頭をよぎりました。「もし残業をした場合、この合算された年俸の1/12が残業代の計算基準になるのだろうか?」
同僚の佐藤さんは、「手当が含まれているなら、計算の基礎となる金額(通常賃金)が上がって、残業代も増えるはずだ」と言いますが、会社側の説明は曖昧です。田中さんは、自分の権利を守るために韓国の労働法がこの「統合された年俸」をどう定義しているのかを調べることにしました。
第2節:核心となる法的な問い
田中さんのケースにおける核心的な問いは、「基本給、賞与、諸手当を統合して年間の総額を定め、それを毎月分割して支給する場合、その分割支給額の全額を『通常賃金』として認められるか」という点です。
第3節:韓国の法律が定める「通常賃金」とは
韓国の労働基準法において、延長労働(残業)、夜間労働、休日労働の手当を計算する際の基準となるのが「通常賃金」です。ある賃金が通常賃金に該当するかどうかは、その名称ではなく、以下の3つの実質的な要件を満たしているかで判断されます。
- 定期性: 一定の期間ごとに定期的に支払われること。
- 一律性: 条件を満たすすべての労働者に一律に支払われること。
- 固定性: 労働者が提供した労働に対して、業績などに関係なくあらかじめ確定していること。
「ある金品が通常賃金に含まれるかどうかは、その名称のみで判断してはならず、賃金体系の変更経緯、就業規則の規定、実際の支給慣行などを総合的に考慮して判断されるべきである。」
田中さんのように、従来の基本給、賞与、家計支援費などの諸手当を統合して年間の総額を決め、それを12分の1ずつ毎月支払う場合、これらは上記の3要件を満たす可能性が非常に高くなります。
第4節:韓国裁判所と当局のアプローチ
韓国の雇用労働部(行政当局)および裁判所は、賃金体系を年俸制に変更し、各種手当を統合して毎月分割支給する場合、その月々の支給額を通常賃金と見なすのが一般的です。
具体的には、かつては「賞与」という名目で数ヶ月に一度支払われていたものであっても、年俸制への移行に伴い「年間の確定額」として基本年俸に組み込まれ、毎月一定額が支払われるようになったのであれば、それはもはや臨時的な賃金ではなく、固定的な通常賃金であると解釈されます。
第5節:田中さんのケースへの適用
田中さんの状況を法的に分析してみましょう。
まず、田中さんの基本年俸には基本給、役職手当、家族手当、賞与が含まれています。これらが年俸として固定され、毎月1/12ずつ支払われるのであれば、それは「定期性」「一律性」「固定性」をすべて備えています。したがって、原則として田中さんの毎月の支給額(年俸÷12)がそのまま通常賃金となります。
しかし、一つだけ重要な例外があります。もし田中さんの契約書の中に、「基本年俸の中に月〇〇時間分の固定残業代を含む」という、いわゆる包括賃金制(または固定残業代制)の合意が含まれている場合です。
行政解釈(賃金勤労時間政策チーム-3347)によると、「基本年俸の中に延長労働時間に対する賃金(残業代)まで含まれている場合には、その部分は通常賃金の範疇から除外されるべきである」とされています。
つまり、年俸の中に「本来の労働に対する対価」ではない「残業代の先払い分」が混ざっているなら、その分を差し引いた金額が通常賃金になるということです。
第6節:結論:田中さんのこれからとアドバイス
結論として、田中さんの年俸に残業代が含まれていない純粋な基本給と諸手当の合算であるならば、田中さんの残業代の単価は以前よりも高くなる可能性が高いです。なぜなら、以前は通常賃金に含まれなかったかもしれない一部の手当や賞与が、年俸制への移行によって通常賃金化されたからです。
田中さんは会社に対し、提示された年俸の構成内訳を明確にするよう求め、その中に固定残業代が含まれているかどうかを確認することにしました。
読者の皆さんが同様の状況に直面した際は、以下の2点に注意してください:
- 給与明細と契約書を照合する: 年俸に含まれる項目(基本給、賞与、手当)を書き出し、それぞれが固定的に支払われているか確認しましょう。
- 「固定残業代」の有無を確認する: 年俸制の契約では、気づかないうちに残業代が含まれていると記載されていることがあります。この条項の有無が、追加の残業代を請求できるかどうかの分かれ目となります。
法的な権利を正しく理解することは、公平な労働対価を得るための第一歩です。




















