1 — 一人の申立人の物語
金美奈は、行政機関から受けた一時的な制限措置に納得できなかった。措置が終わったあとも、それが憲法上許されるものだったのかを確かめたいと考え、憲法訴願を申し立てた。自分だけで手続を進めることはできず、弁護士を依頼するためにまとまった費用を支払った。
ところが審理が進むうちに、争いの対象だった措置はすでに終了していた。憲法裁判所は、美奈について、もはやその申立てを通じて守るべき具体的な権利保護の利益がないとして、訴願を却下した。美奈にとっては、憲法上の問題に答えが出ないまま手続が終わり、弁護士費用だけが残った。
「憲法裁判は国が費用を負担するのなら、弁護士に払ったお金も返してもらえるのではないか」。美奈の疑問は、制度の仕組みを知らない人にとって、もっともなものに思える。
2 — 問われていること
憲法訴願で、申立ての利益が失われたとして却下された場合、弁護士を依頼することが法律上必要だったとしても、申立人が支払った弁護士報酬を国に負担させることができるのか。
3 — 韓国法の考え方
韓国の憲法裁判は、個人の紛争を解決するだけの制度ではない。憲法を守り、国家権力を統制し、基本権を保障するという公共的な役割を担う。このため、憲法裁判の審判にかかる費用は、原則として国が負担する仕組みになっている。
しかし、ここでいう「審判費用」と、申立人が手続を進めるため自分で支払った「当事者費用」は同じではない。韓国の憲法裁判所は、審判費用に含まれるのは、裁判手数料や、審理のために憲法裁判所が支出する費用であり、弁護士報酬などの当事者費用は含まれないと判断している。
憲法裁判所法は、憲法裁判の審判費用を原則として国の負担としています。しかし、そのことから、申立人が自ら支払った弁護士費用まで国が負担するとはいえません。
憲法訴願では、原則として弁護士を代理人に立てる必要がある、いわゆる弁護士強制主義が採られている。一見すると、「弁護士を立てなければならないのだから、その費用も国が負担すべきだ」と考えたくなる。だが、法律は、一定の条件を満たす人が利用できる国選代理人制度も別に設けている。弁護士を依頼する必要があることと、私的に支払った報酬を後から国に請求できることは、別の問題なのである。
要点を整理すると、次のとおりだ。
- 国が負担する審判費用には、裁判手数料や、憲法裁判所が審理のために支出する費用が含まれる。
- 申立人が弁護士に支払った報酬など、手続のために自ら負担した費用は、原則として国の負担に含まれない。
- 弁護士を立てる必要がある場合でも、私選弁護士の報酬が当然に払い戻されるわけではない。
- 経済的事情などがある人は、申立ての前に国選代理人制度を利用できるか確認する必要がある。
4 — 韓国の裁判所はどう考えるか
韓国の憲法裁判所は、2015年5月28日の決定(2012헌사496)で、この費用の線引きを明確にした。憲法裁判の公共的な役割を理由に国が審判費用を負担することは、弁護士報酬のような当事者費用まで国が負担することを意味しない、という判断である。
裁判所が重視したのは、費用負担の範囲を無制限に広げた場合の影響だった。申立ての結果にかかわらず弁護士費用まで国が負担するなら、憲法訴願をむやみに利用する誘因が生じ、憲法裁判所の負担が増すおそれがある。限られた審理資源が使われれば、ほかの人が憲法裁判所を利用する機会にも影響しかねない。また、国選代理人制度が設けられていることも、私選代理人の報酬を一律に公費で補てんする制度ではないことを示すとされた。
裁判所の基本的な考え方は、「公共的な裁判を国が支えること」と「個人が選んだ弁護士の費用を国が返すこと」は区別される、というものです。
5 — 美奈のケースに当てはめる
美奈の状況を、順を追って考えてみよう。
- 訴願が却下された理由を確認する。 美奈の申立ては、憲法上の主張そのものについて判断が示されたのではなく、争っていた措置が終了し、権利保護の利益が失われたとして却下された。これは、少なくともこの事例では、憲法裁判所が本案の判断に進むための要件が満たされなかったことを意味する。
- 国が負担する「審判費用」の範囲を区別する。 国が負担するのは、裁判手数料や裁判所自身が審理のために支出した費用である。美奈が弁護士に支払った報酬は、裁判所の支出ではなく、手続を進めるために申立人自身が負担した費用に当たる。
- 弁護士が必要だったことだけでは、払い戻しの根拠にならない。 美奈が弁護士を立てたのは、憲法訴願の手続上、代理人が必要だったからだ。しかし、弁護士を立てる義務があることは、私選弁護士への支払いを国が後から補てんする制度があることを意味しない。国選代理人制度が別に設けられていることも、この違いを支えている。
- したがって、費用の請求は認められない。 美奈は、自分が支払った弁護士報酬を、憲法裁判の審判費用として国に負担させることはできない。申立てが却下されたことだけを理由に、弁護士費用の払い戻しを求めることもできない。
なお、申立ての利益が後から失われたように見えても、事案によっては、措置の継続的な影響などを踏まえて保護すべき利益が残るかが問題となることがある。美奈の結論を、あらゆる憲法訴願にそのまま当てはめるのではなく、申立ての利益と費用の負担はそれぞれ別に検討する必要がある。
6 — 結論:美奈に何が起きたのか、そして何をすべきか
美奈は、憲法訴願を申し立てるために弁護士へ支払った報酬を、国から返してもらうことはできなかった。憲法裁判の公共性を支える国の費用負担は、申立人が個別に選んだ弁護士の費用まで補償するものではないからだ。美奈の経験が示すのは、訴願の内容だけでなく、申立ての利益が続いているか、また費用を誰が負担するかを、手続の初期から考える必要があるということだ。
同じ状況にある人は、次の点を押さえておきたい。
- 申立ての前に、権利保護の利益が残るかを弁護士と確認する。 措置がすでに終了している場合は、継続的な影響などがあるかを含め、訴願を続ける実益を検討する。
- 弁護士費用の払い戻しを前提にしない。 私選弁護士の報酬や、手続のために自分で支払う費用について、契約時に負担額と返金の可能性を確認する。
- 国選代理人制度を早めに調べる。 経済的事情などから私選弁護士への依頼が難しい場合は、憲法訴願を申し立てる前に、国選代理人を利用できる条件や申請手続を確認する。




















