1. パク・ジュノさんの「名ばかりの昇進」
パク・ジュノさんは、中堅製造会社「甲株式会社」で経理部長として5年間、誠実に勤務してきました。会社の財務を一身に引き受けてきた彼の功績を認め、ある日、社長は彼に「常務取締役」という新しい肩書きを与えました。パク・ジュノさんは喜び、新しい名刺には「常務」という文字が誇らしく刻まれました。
しかし、役員という肩書きになっても、彼の日常は何も変わりませんでした。相変わらず社長の指示を受けて経理の実務を行い、出退勤時間も他の社員と同じように管理されていました。経営に関する重要な意思決定に参加することも、会社を代表して契約を結ぶ権限もありませんでした。それからさらに数年が経ち、パク・ジュノさんは退職を決意します。しかし、会社側の反応は冷ややかなものでした。「役員には退職金の規定がないし、君は役員だから労働基準法の対象外だ。一銭も払えない」と言うのです。果たして、彼の5年間の努力は報われないのでしょうか。
2. 法的な核心:役員は「労働者」ではないのか?
このケースにおける最大の争点は、パク・ジュノさんのような「形式上の役員」が、韓国の労働基準法における「労働者」に該当するかどうかです。会社側は、取締役は会社から事務処理の委任を受けた「受任者」であり、賃金を目的に働く「労働者」ではないと主張しています。
3. 韓国の法律が定める「労働者」の定義
韓国の労働基準法では、労働者を次のように定義しています。
労働基準法 第2条 第1項 第1号「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事業場に賃金を目的として労働を提供する者をいう。
一方で、本来の役員(取締役)は、商法に基づき株主総会で選任され、会社の業務執行権を持つ立場です。そのため、原則として労働基準法は適用されません。役員の退職金については、以下のルールが適用されます。
- 定款や就業規則に役員用の退職金規定がある場合にのみ支払われる。
- 規定がない場合は、株主総会の決議が必要となる。
- これらがない場合、原則として法的な退職金請求権は発生しない。
4. 韓国裁判所が示す「実態重視」の原則
韓国の大法廷(最高裁判所)は、肩書きが「取締役」や「常務」であっても、その実態によって労働者性を判断するという確固たる原則を持っています。
- 指揮・監督の有無: 使用者(社長など)から具体的な業務指示を受け、それに基づき労務を提供しているか。
- 業務の独立性: 自身の裁量で業務を執行する権限があるか、それとも補助的な業務に従事しているか。
- 報酬の性質: 支払われるお金が、経営成果に対する配分ではなく、労働の対価(賃金)としての性格を持っているか。
裁判所は、「業務執行権を持つ役員は、たとえ株主でなくても受任者であるため労働者ではない」とする一方で、「役員という名称であっても、実態として指揮・監督下で労務を提供しているなら労働者である」と判示しています。
5. パク・ジュノさんのケースへの適用
パク・ジュノさんの状況を詳しく分析してみましょう。
第一に、彼は「常務」という肩書きを得た後も、以前と変わらず経理部長としての実務に従事していました。これは、彼が会社から委任された独立した経営者ではなく、依然として組織の一員として労務を提供していたことを示しています。
第二に、彼は社長の指揮・監督の下にありました。出退勤の管理を受け、日常的な業務報告を行い、独自の決定権を持っていなかった点は、労働者性を強く裏付ける証拠となります。
したがって、パク・ジュノさんは形式上は役員であっても、実態は労働基準法上の「労働者」であり、会社は彼に対して勤続年数に応じた退職金を支払う義務があります。
6. 結論:正当な権利を勝ち取るために
最終的に、パク・ジュノさんは労働局への申告や法的助言を通じて、自分が「労働者」であることを立証し、無事に退職金を受け取ることができました。会社側が主張した「役員だから支給不可」という論理は、実態を伴わない形式的な主張に過ぎなかったのです。
もし、あなたも同様の状況にあるなら、以下の2つのポイントを確認してください。
- 業務の実態を記録する: 社長から受けた具体的な業務指示メールや、出退勤記録、決済ラインにおける自分の立場を証明できる資料を保管しておきましょう。
- 「役員」としての権限の有無: 自分に人事権や契約締結権、経営会議での議決権があったかどうかを客観的に振り返ってみてください。実態が「従業員」であれば、法はあなたの味方です。
肩書きに惑わされず、自分の真の法的地位を知ることが、大切な権利を守る第一歩となります。




















