1. ある社員の困惑:佐藤さんの退職金計算書

ソウルのIT企業で10年間、情熱を注いで働いてきた佐藤健一さん。彼はキャリアアップのため、惜しまれつつも退職を決意しました。会社の退職金規定には「勤続年数に応じた累進率」が適用されており、長年貢献した彼にとって、まとまった金額が支払われるはずでした。

しかし、いざ提示された退職金の計算書を見た佐藤さんは首をかしげました。毎月欠かさず支給されていた「食事補助手当」や「家族手当」が、退職金の算定根拠となる賃金から完全に除外されていたからです。社内規定には確かに「食事補助費などは平均賃金の算定に含めない」と明記されていましたが、佐藤さんは納得がいきませんでした。

「毎月決まって支払われていたお金なのに、なぜ退職金の計算からは消えてしまうのか? これは法律違反ではないのか」と、彼は不安と疑問を抱いたまま、専門家への相談を決めました。

2. 法的な争点

このケースで問われているのは、「会社が規定で特定の手当(食事手当など)を退職金算定の基礎から除外することを禁止しているか」、そして「そのような規定が韓国の労働法において有効か」という点です。

3. 韓国の労働法が定める「平均賃金」とは

韓国の「勤労基準法」および「勤労者退職給与保障法」では、法定退職金は平均賃金に基づいて算定されると定められています。

平均賃金とは:平均賃金を算定すべき事由が発生した日の直前3ヶ月間に、その勤労者に支払われた「賃金の総額」をその期間の総日数で割った金額を指します(勤労基準法 第2条 第1項 第6号)。

ここで重要なのは、「賃金の総額」に何が含まれるかということです。判例によれば、以下の条件を満たす手当は賃金とみなされます。

  • 継続的・定期的に支給されていること
  • 個人の特殊な事情や偶然の状況によるものではなく、一律に支給されていること
  • 恩恵的に(会社の好意で)支給されるものではなく、労働の対価としての性質を持つこと

したがって、佐藤さんが受け取っていた食事補助費や、一定の要件を満たす社員に一律に支給される家族手当は、原則として平均賃金に算入されるべき「賃金」に該当します。

4. 韓国裁判所の判断基準:法定最低基準との関係

しかし、ここで一つの重要な法的視点が加わります。韓国の裁判所は、会社の規定が法律の「最低基準」を侵害しているかどうかに注目します。

裁判所の考え方はこうです。たとえ特定の手当が平均賃金に該当する場合であっても、会社が独自の退職金規定を設けており、その規定に基づいて計算された最終的な退職金額が、法律で定められた法定退職金(最低ライン)を上回っている場合、その規定を直ちに無効とすることはできません。

つまり、累進率などの優遇措置があるおかげで、一部の手当を抜いたとしても、結果的に法定額より多くもらえるのであれば、その規定は有効であると判断される傾向にあります。

5. 佐藤さんのケースに法を適用する

佐藤さんの状況をステップごとに分析してみましょう。

  1. 手当の性質確認: 佐藤さんの食事補助費と家族手当は、継続的かつ一律に支払われていたため、法的には「平均賃金」に含まれるべき項目です。
  2. 規定の確認: 会社の規定ではこれらを除外しています。本来であればこれは不適切ですが、会社は「累進率」という加算制度を導入しています。
  3. 金額の比較:
    • パターンA(法定): 全手当を含めた平均賃金 $\times$ 勤続年数(1年につき30日分)
    • パターンB(会社規定): 一部手当を除いた平均賃金 $\times$ 累進率適用後の係数

もし、累進率が適用されたパターンBの金額が、すべての手当を含めて計算したパターンAの金額よりも高いのであれば、佐藤さんは会社規定による計算を受け入れることになります。逆に、手当を除外したことで最終額が法定最低額を下回っているなら、会社は差額を支払う義務があります。

6. 結論:佐藤さんはどうなったか、そしてあなたへのアドバイス

精査の結果、佐藤さんの場合は累進率が高く設定されていたため、食事手当を除外して計算しても、法定の最低退職金より高い金額になることがわかりました。したがって、会社の規定は有効であり、佐藤さんは規定通りの金額を受け取ることになりました。

もしあなたが同じような状況にあるなら、以下のステップを踏んでください。

  • まずは「比較計算」をしてください: 会社規定による金額と、すべての定期的手当を含めて計算した法定最低額(1年につき30日分の平均賃金)を書き出しましょう。
  • 差額を確認してください: 会社規定の金額が法定額を下回っている場合、その規定は無効となり、不足分を請求することが可能です。
  • 証拠を保存してください: 給与明細書や就業規則(給与規定)のコピーを必ず保管しておき、どのような手当が除外されていたかを明確に証明できるようにしましょう。