1. 人間味あふれる物語

中堅企業の営業部長として長年勤めてきた佐藤健司さんは、ある日、知人の実業家であるパク・ドヒョン氏から魅力的な提案を受けました。「新しく物流会社を立ち上げるのだが、君の経験を見込んで代表取締役に就任してほしい。経営の細かいことは私がやるから、君は対外的な顔になってくれればいい」という内容でした。

佐藤さんは「社長」という肩書きに惹かれ、深く考えずに承諾しました。しかし、実際に業務が始まってみると、佐藤さんには人事権も決裁権も全くありませんでした。従業員の採用から給与額の決定、日々の配送指示に至るまで、すべては影のオーナーであるパク氏が握っていたのです。佐藤さんは、パク氏が作成した書類に印鑑を押すだけの「ロボット社長」に過ぎませんでした。

2. 法的な問い

会社が経営難に陥り、数ヶ月の賃金未払いが発生したまま倒産したとき、事態は急変しました。従業員たちは、登記上の代表者である佐藤さんを相手取り、未払い賃金と退職金の支払いを求めて訴えを起こしたのです。果たして、実質的な権限を持たなかった「名ばかり社長」の佐藤さんは、労働基準法上の義務を負う「使用者」として、私財を投じてまで従業員の給与を支払わなければならないのでしょうか?

3. 韓国法は何と言っているか

韓国の労働基準法において、賃金や退職金の支払い義務を負う「使用者」とは、事業主、事業経営担当者、または労働者に関する事項について事業主のために行為する者を指します。しかし、ここで重要なのは「形式」ではなく「実態」です。

韓国の大法廷判例(大法院 2007.3.30. 宣告 2004ダ8333 判決等)によれば、実質的な労働関係が存在しない場合、他の法律によって「使用者」として扱われていたとしても、直ちに労働基準法上の賃金・退職金支払義務を負うわけではないと明示されています。

つまり、ある人物が法的に「使用者」としての外形を備えていても、実際の労働現場で指揮・監督を行っておらず、単に名義を貸しているだけの場合、その責任の所在は改めて判断されるべきだということです。

4. 韓国裁判所の判断

韓国の裁判所は、ある人物が「使用者」または「労働者」に該当するかを判断する際、以下の基準を総合的に考慮します。

  • 業務の内容が使用者によって決定されているか
  • 就業規則や人事規定の適用を受け、業務遂行の過程で直接的な指揮・監督を受けているか
  • 勤務の時間と場所が指定され、それに拘束されているか
  • 報酬が労働の対価としての性質を持っているか

裁判所は、たとえ代表取締役という肩書きであっても、その実態が「給与を受け取って他人の指揮下で働く者」であれば、むしろ「労働者」と判断することもあります。逆に、名目上の役員が未払い賃金の責任を問われた場合、その人物に実質的な経営権がなかったことを証明できれば、支払い義務を免れるケースもあります。

5. 事件への法の適用

佐藤さんのケースに当てはめてみましょう。佐藤さんは代表取締役として登記されていましたが、実際にはパク氏の指示に従って動くだけの存在でした。賃金の決定権もなく、予算の執行権もありませんでした。

この場合、佐藤さんは労働基準法上の「事業経営担当者」としての実態を備えていないと判断される可能性が高いです。むしろ、佐藤さん自身もパク氏から給与を受け取って働いていたのであれば、佐藤さんもまた「労働者」として保護される対象になり得ます。したがって、従業員に対する賃金支払いの最終的な法的責任は、実質的な支配者であるパク氏が負うべきだという結論に至ります。

6. 結論:何が起きたのか、そしてどうすべきか

結局、裁判所は佐藤さんに実質的な経営権がなかったことを認め、彼に従業員の退職金を支払う義務はないとの判決を下しました。佐藤さんは「社長」という重圧から解放されましたが、名義貸しのリスクを痛感することになりました。

同様の状況にある方々へ、以下の2つのアドバイスを贈ります。

  1. 「名義貸し」の誘いには慎重に: 実質的な権限がないのに役員として名前を貸すことは、後々、労働紛争や刑事罰の責任を問われるきっかけになります。自分の立場と権限が明確でない契約は避けるべきです。
  2. 実態を証明する記録を残す: もし自分が「名ばかり役員」であるなら、誰からどのような指示を受けていたか、自分に権限がなかったことを示すメールや文書を日頃から保管しておくことが、自分を守る盾となります。

本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の事案については必ず法律専門家にご相談ください。