第1章:パクさんの「お得な」はずの契約
京畿道の小さな機械部品工場で5年間働いたパク・ジュノさんは、ついに定年退職の日を迎えました。入社時、社長のキム氏はパクさんにこう提案しました。「パクさん、退職金を最後にまとめてもらうより、毎月の給料に上乗せして受け取るほうが生活が楽でしょう?退職金分割払いとして、月給に30万ウォンずつ加算してあげるよ」
パクさんは、毎月の手取りが増えるならそのほうがありがたいと考え、快諾しました。契約書にも「月給には退職金相当額が含まれており、退職時には別途退職金を請求しない」という条項にサインをしました。しかし、いざ退職してまとまった資金が必要になったとき、パクさんはふと疑問に思いました。長年連れ添った同僚が「それは違法じゃないか」と助言してくれたからです。
パクさんがキム社長に改めて退職金を求めると、社長は激怒しました。「毎月上乗せして払ってきたじゃないか!二重取りするつもりか?」パクさんの平穏な老後は、この一枚の契約書を巡る法的な争いに巻き込まれることになりました。
第2章:法的な争点
このケースにおける核心的な問いは、「使用者と労働者が合意の上で、退職金を月給や日給に分割して事前に支払うという約定(退職金分割約定)は、法的に有効なのか?」という点です。
第3章:韓国の労働法が定める原則
韓国の労働基準法および労働者退職給付保障法では、退職金について厳格なルールを設けています。原則として、退職金は「退職」という事由が発生して初めて支払われるべきものです。
韓国労働基準法(旧法第34条)および関連法理労働者が退職する前に退職金請求権を事前に放棄するような約束は、労働者を保護するための強行法規に違反するため、無効となります。
具体的には、以下の理由から分割払いの約定は認められにくいのが現状です:
- 事前放棄の禁止: 退職金は退職後に発生する権利であり、発生前に「いりません」または「別の形で受け取ったので請求しません」と約束することはできません。
- 中間精算の要件: 法律で定められた特定の事由(住宅購入、療養など)がない限り、退職金の中間精算(前払い)は認められません。
第4章:裁判所はどのように判断するか
韓国の大法院(最高裁判所)の判例によれば、このような退職金分割約定は、特別な事情(適法な中間精算の手続きを踏んでいるなど)がない限り、「無効」であるというのが一貫した見解です。
裁判所は、たとえ労働者が同意してサインをしていたとしても、それが強行法規(当事者の合意よりも優先される法律)に反する以上、法的効力を認めません。つまり、雇用主が「退職金の名目で」お金を支払っていたとしても、それは退職金の支払いとしての効力を持たないと判断されます。
第5章:パクさんのケースへの適用
パクさんの事例にこの法理を当てはめてみましょう。パクさんとキム社長が結んだ「退職金を月給に含めて支払う」という約定は、法的に無効です。パクさんが署名した「別途請求しない」という誓約も、法的な効力はありません。
したがって、パクさんは退職時に改めて、5年間の勤務に基づいた正規の退職金を請求する権利があります。キム社長が「すでに払った」と主張する月々の30万ウォンは、法的には単なる「賃金の一部」として扱われるか、あるいは不当利得として別途返還の問題が生じる可能性はありますが、退職金そのものを支払ったことにはなりません。
第6章:結論:パクさんは救われるのか?
結局、パクさんは労働当局の助言を受け、正当な退職金を全額受け取ることができました。キム社長は「合意したのに裏切られた」と感じるかもしれませんが、法律は労働者の将来の生活基盤である退職金を、目先の契約で失わせないよう強力に保護しているのです。
もし、あなたや周囲の人が同じような状況にあるなら、以下の点に注意してください:
- 「退職金込み」の求人に注意: 月給が高く見えても、退職金が含まれている場合は、実際には最低賃金に近い条件かもしれません。
- 契約書の文言を過信しない: 法律に反する契約内容は、サインをしていても無効になるケースが多いです。
- 専門家に相談を: すでに分割で受け取っている場合でも、退職時に差額や全額を請求できる可能性があるため、労働弁護士や公認労務士に相談することをお勧めします。
** *本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言に代わるものではありません。




















