冬の「早帰り」制度に潜む誤解
ソウルの有名デザイン事務所で働く田中さんは、会社が導入している「冬期短縮勤務制度」をとても気に入っていました。韓国の厳しい寒さを考慮し、12月から2月までの間、平日の終業時間を通常より1時間早め、1日7時間勤務(週35時間)とする制度です。田中さんは、浮いた時間で韓国語の勉強に励むつもりでした。
ところがある日、急ぎのプロジェクトが入り、田中さんは短縮された終業時間を過ぎて、通常の終業時間まで1時間残業することになりました。「本来なら帰れる時間に働いたのだから、当然1.5倍の残業代が出るはずだ」と田中さんは期待していました。しかし、翌月の給与明細を確認すると、その1時間分は「通常の時給」として計算されており、50%の割増分が含まれていませんでした。事務方に問い合わせると、「法定労働時間の8時間を超えていないので、割増は出せない」という冷たい返事が返ってきました。
法的な争点:短縮された1時間は「時間外労働」か?
このストーリーにおける核心的な問いは、「会社が定めた所定労働時間(7時間)を超えて働いたが、法律が定める上限(8時間)は超えていない場合、割増賃金を支払う義務があるのか?」という点です。
韓国の労働基準法が定める基準
韓国の労働基準法では、労働時間と割増賃金について以下のように規定しています。
労働基準法 第50条(労働時間)1週間の労働時間は、休憩時間を除いて40時間を超えることができない。1日の労働時間は、休憩時間を除いて8時間を超えることができない。
労働基準法 第56条(延長・夜間及び休日労働)使用者は、延長労働(第50条の時間を超える労働)に対しては、通常賃金の100分の50以上を加算して支払わなければならない。
つまり、法律上「割増賃金(1.5倍)」が発生するのは、あくまで1日8時間、または週40時間を超えた場合に限定されています。
韓国の裁判所はどう判断しているか?
韓国の最高裁判所(大法院)は、過去の判決(1998年6月26日宣告 97ダ14200判決など)において、一貫した立場をとっています。
- 平日の勤務時間を7時間に短縮している場合でも、その超過分が1日8時間を超えない範囲であれば、それは「法定内残業」とみなされます。
- この「法定内残業」は、労働基準法第56条が定める「延長労働」には該当しません。
- したがって、就業規則や労働契約において「短縮時間分を超えたら割増賃金を支払う」という特別な合意がない限り、会社は通常の時給(100%)のみを支払えば足り、割増分(50%)を支払う必要はありません。
田中さんのケースへの適用
田中さんの場合、冬期短縮制度によって勤務時間は7時間となっていましたが、実際に働いたのは8時間でした。韓国の法律に照らし合わせると、以下のようになります。
- 1時間から7時間まで: 通常の所定労働時間(100%の賃金)。
- 7時間から8時間まで: 法定労働時間(8時間)の範囲内。これを「法定内超過勤務」と呼び、割増義務はありません(100%の賃金)。
- 8時間を超えた場合: ここで初めて労働基準法上の「延長労働」となり、割増義務が発生します(150%の賃金)。
残念ながら田中さんの残業は、法律上の上限である8時間を超えていなかったため、会社側が割増賃金を支払わないという判断は、韓国の法律上、正当なものとなります。
結論:何を確認すべきか?
田中さんは今回の件で、会社の「善意の制度」と「法的義務」は別物であることを学びました。しかし、会社によっては福利厚生として、短縮時間を超えた時点から割増賃金を出すと定めている場合もあります。
同様の状況にある方は、以下の2点を確認することをお勧めします。
- 就業規則や労働契約書の確認: 「法定労働時間に関わらず、所定労働時間を超えた場合は割増賃金を支給する」という一文がないかチェックしてください。もし規定があれば、請求可能です。
- 短縮勤務の性質の把握: その短縮が「労働時間の完全な変更」なのか、単なる「早期退社の許容」なのかによって、法的な解釈が変わる可能性があります。
韓国で働く際は、「8時間」という壁が非常に重要であることを覚えておきましょう。
本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。




















