第1章 — 現場に残り続けた佐藤さんの戸惑い

佐藤美咲さんは、大手エネルギー企業「A発電株式会社」の現場で働く派遣社員です。彼女の仕事は、発電補助業務や化学試料の採取、変電所の補助業務など、専門性と体力を要するものでした。佐藤さんは、A発電の正社員と同じオフィスに席を並べ、毎朝のミーティングにも出席し、A発電の課長から直接「今日はこのルートでサンプルを採取してほしい」といった具体的な指示を受けてきました。

勤務シフトの作成や急な変更も、所属する派遣会社ではなく、すべてA発電の担当者が決定していました。佐藤さんは、実質的にはA発電の一員として3年間、真面目に働いてきました。しかし、2年が経過した頃、A発電は「派遣元の会社(契約しているアウトソーシング企業)が途中で変更になったので、実務上の勤続年数はリセットされた。正社員としての採用義務はない」と佐藤さんに告げたのです。

佐藤さんは困惑しました。机も、上司も、仕事内容も何一つ変わっていないのに、契約書上の派遣元企業名が変わっただけで、自分の3年間の積み重ねは無効になってしまうのでしょうか?

第2章 — この物語が提起する法的論点

このケースで最も重要な法的争点は、「派遣期間の制限(2年)を超えて労働者を使用している場合、派遣元企業の変更がその継続期間のカウントに影響を与えるか」という点です。また、直接雇用の義務が発生しているにもかかわらず、企業がそれを履行しない場合、労働者はどのような法的手段を取れるのかが問われています。

第3章 — 韓国の「派遣法」は何と定めているか

韓国の「派遣労働者保護等に関する法律(以下、派遣法)」では、派遣労働者の雇用の安定を図るため、次のような厳格なルールを設けています。

派遣法 第6条の2 第1項使用事業者(派遣先)が2年を超えて継続的に派遣労働者を使用する場合、当該派遣労働者を直接雇用しなければならない。

この規定のポイントは以下の通りです:

  • 2年の制限: 専門業務であっても、同一の労働者を2年を超えて派遣として使ってはいけません。
  • 直接雇用の義務: 2年を超えた瞬間、派遣先企業はその労働者を正社員(または期間の定めのない労働者)として雇用する法的な義務を負います。
  • 直接的な指揮命令: 派遣先企業が直接、業務の指示や監督を行っている「実質的な派遣関係」がある場合に適用されます。

第4章 — 韓国裁判所は「形式」よりも「実態」を重視する

韓国の大法院(最高裁判所に相当)は、佐藤さんのようなケースについて非常に明確な判断を下しています。裁判所は、派遣法の目的が「派遣の常用化・長期化を防ぎ、労働者の雇用安定を図ること」にあると強調しています。

具体的には、「派遣元(派遣会社)が途中で変わったとしても、派遣先企業が継続してその労働者を使用している限り、2年のカウントは中断されない」という原則を確立しています。これは、派遣先企業が派遣会社を入れ替えることで、法の網をかいくぐり、労働者を長期間「使い捨て」にすることを防ぐための論理です。

また、企業がこの雇用義務を守らない場合、労働者は裁判を通じて「雇用の意思表示を求める判決」を得ることができ、判決が確定すれば法的に直接雇用関係が成立したとみなされます。

第5章 — 佐藤さんのケースに法を適用する

佐藤さんの状況を法的に分析してみましょう。

  1. 継続的な使用: 佐藤さんは3年間、同一の現場(A発電)で勤務しています。
  2. 指揮命令の実態: 業務教育、座席配置、会議への参加、シフト決定など、すべてA発電が主導していました。これは典型的な「使用事業者による直接的な指揮監督」にあたります。
  3. 派遣元変更の影響: 判例によれば、派遣会社がA社からB社に変わったことは、A発電が佐藤さんを「継続して使用している」という事実を否定する理由にはなりません。

したがって、A発電は佐藤さんが2年を超えて勤務した時点で、彼女を直接雇用する義務が生じていたことになります。「派遣元が変わったからリセットされた」という会社の主張は、法的に認められない可能性が極めて高いのです。

第6章 — 結論:佐藤さんが取るべき道とアドバイス

佐藤さんは、A発電株式会社を相手取り、「労働者としての地位確認」を求める訴訟を提起することができます。さらに、雇用義務が発生した時点から実際に雇用されるまでの期間、正社員であれば支払われていたはずの賃金と、現在の賃金との差額を損害賠償として請求することも可能です。

同様の状況にある読者の皆さまへ、以下の3つのアドバイスを送ります。

  • 「直接指示」の証拠を残す: 派遣先の上司からのメール、チャット、業務指示書、会議資料などは、実質的な指揮監督関係を証明する重要な証拠になります。
  • 勤務実態を記録する: 派遣会社が変わっても、同じ場所で同じ仕事を続けていることを証明するため、入退館記録や業務日報を保管しておきましょう。
  • 「2年」の壁を意識する: 2年が近づいた際に、会社側が不自然な契約変更や派遣元の変更を求めてきた場合は、安易に同意せず、専門家や弁護士に相談することをお勧めします。

法は「形式的な契約書」ではなく、「あなたがどこで、誰の指示で働いたか」という実態を見ています。勇気を持って一歩踏み出すことが、正当な権利を守る第一歩となります。

** *本コラムは一般的な法的情報の提供を目的としており、個別の事案に対する法律相談に代わるものではありません。具体的な問題については、専門の弁護士にご相談ください。