1 人の物語――遺産の話し合いに、娘だけが呼ばれなかった

キム・ソヨンの父は、韓国で民法が施行される前に亡くなりました。父は一家の戸主で、家には土地と古い家屋が残されていました。兄たちは遺産の分け方を話し合いましたが、ソヨンには声がかかりません。親族から返ってきたのは、「当時の慣習では、女性に相続権も遺産分割を求める権利もない」という説明でした。

納得できなかったソヨンは、父の遺産をめぐる民事訴訟を起こし、その慣習は憲法に反すると主張します。さらに、裁判所から憲法裁判所へ違憲審査を求めてもらおうと考えました。しかし、ここには見落としやすい手続き上の問題があります。憲法に反するかを審査する仕組みがあっても、あらゆる法規範がその審査の対象になるわけではないのです。

2 法的な問い――慣習法にも違憲法律審判を申し立てられるか

ソヨンが問うのは、民法施行前の相続に関する慣習法――戸主が死亡した場合、女性には相続権も遺産分割請求権もないとするもの――を、憲法裁判所による違憲法律審判の対象にできるか、ということです。

結論を先にいえば、慣習法そのものについて違憲法律審判を求める申立ては、原則として不適法として却下されます。ただし、それは慣習法が必ず有効だという意味ではありません。争いの場は、憲法裁判所への法律審判ではなく、ソヨンが遺産をめぐって争っている通常の裁判所です。

3 韓国法が定めること――違憲審査の対象と慣習法の位置

韓国憲法と憲法裁判所法は、裁判の前提となる法律が憲法に適合するかを、一定の手続きで審査する仕組みを設けています。ここでいう「法律」は、原則として国会の議決を経て制定された、形式的意味での法律を指します。慣習法は、長く行われてきた慣行などを裁判所が法として認めるものであり、国会が制定した法律とは性質が異なります。

憲法第111条第1項第1号および憲法裁判所法第41条第1項に基づく違憲審査の対象は、原則として国会の議決を経た形式的意味の法律です。

民事に関する慣習法の位置づけは、民法第1条にも示されています。

民事について法律に定めがないときは慣習法により、慣習法もないときは条理によります。

つまり、慣習法は成文法と同じように常に適用されるものではなく、法律に規定がない場合などに補充的に用いられます。韓国の大法院は、慣習法が憲法に反する場合、裁判所がその効力を否定できるとの立場を示しています。

手続きの違いを整理すると、次のとおりです。

  1. 違憲法律審判の申立ては、裁判の前提となる「法律」の合憲性を憲法裁判所に審査してもらうための手続きです。
  2. 慣習法の適用を争う主張は、通常の裁判所に対し、その慣習法を本件に適用すべきでないと求めるものです。
  3. 慣習法について前者の申立てをしても、審査対象ではないとして不適法と判断されるのが原則です。

4 韓国の裁判所はどう考えるか――手続きの入口と、権利の中身を分ける

韓国の裁判所は、違憲審査の対象となる規範かどうかを、まず手続きの入口で区別します。国会が制定した法律と、裁判所が法として認める慣習法は、法源としての性質が異なるためです。したがって、慣習法を対象に憲法裁判所への違憲法律審判を求めても、通常は本案の判断に進まず、申立て自体が不適法として却下されます。

一方で、裁判所は「慣習法だから審査できない」として、その慣習法を機械的に適用するわけではありません。大法院の考え方では、慣習法は民法第1条のもとで補充的な法源にとどまり、憲法に反する場合には通常の裁判所がその効力を否定し得ます。

違憲法律審判の対象にならないことと、慣習法が憲法に照らして有効かどうかは、別の問題です。

そのため、申立てが却下されたからといって、女性に相続権があるかどうかまで決着したとは限りません。手続き上の申立てが退けられた後も、遺産をめぐる裁判の中で、慣習法の効力や適用の可否が争われる余地は残ります。

5 ソヨンの事件に当てはめる――却下されても、主張の道は残る

ソヨンの申立てについて、裁判所は次の順序で考えることになります。

  1. 問題の規範を特定する

ソヨンが問題にしているのは、民法施行前の相続に関する慣習です。国会が制定した法律ではなく、慣習法に当たります。

  1. 違憲法律審判の対象かを判断する

違憲法律審判の対象は、原則として国会の議決を経た形式的意味の法律です。したがって、この慣習法について憲法裁判所への審判を求める申立ては、対象の範囲外となります。

  1. 申立ての手続き上の結論を出す

ソヨンが申立てをしても、裁判所はその適法性を認めず、却下することになります。これは、申立ての方法が適切でないという判断であって、慣習法の内容が憲法に合致すると確定したわけではありません。

  1. 本案の裁判で慣習法の適用を争う

ソヨンは、遺産をめぐる民事訴訟で、当該慣習法が憲法に反し、適用されるべきではないと主張できます。通常の裁判所が、その慣習法の効力や本件への適用を判断します。

ただし、ソヨンが実際に遺産を取得できるかは、違憲審査の申立てが却下されるかどうかだけでは決まりません。相続がいつ開始したのか、当時どの法規範が適用されるのか、誰が相続人に当たるのかなど、本案の事情を裁判所が検討する必要があります。ここで確定できるのは、慣習法に対する違憲法律審判の申立てが不適法となることと、慣習法の適用自体は通常の裁判所で争うべきだという点です。

6 結論――申立ては却下、争いは通常の裁判所へ

ソヨンの違憲法律審判の申立ては、慣習法が審査対象ではないため、不適法として却下されます。しかし、これで彼女の訴えが終わるわけではありません。ソヨンは民事訴訟を続け、女性に相続権を認めない慣習法は憲法に反するため適用されるべきでないと、通常の裁判所に主張することになります。最終的に遺産を取得できるかは、相続開始時期などを踏まえた本案の判断に委ねられます。

同じような問題に直面したときは、次の点を意識してください。

  • 争っているものが法律か慣習法かを確認する。 違憲法律審判の対象になるかどうかは、規範の種類によって異なります。
  • 手続きの申立てと、権利そのものの主張を分ける。 慣習法の適用が問題なら、通常の訴訟でその効力や適用の可否を具体的に主張します。
  • 相続開始時期と証拠を早めに整理する。 古い相続では、いつ相続が始まったか、当時どの法が適用されるかが重要になるため、関連資料を持参して韓国法に詳しい弁護士に相談してください。