1 — 人間の物語
佐藤健が六か月の服役を終えて家に戻ったのは、十年以上前のことです。姦通罪で有罪判決を受けた彼は、出所後、仕事を探し直し、家族との関係を立て直そうとしました。それでも、前科と服役の記憶は、人生の節目ごとに影を落としていました。
ある日、妹から「姦通罪は違憲になったらしい」と聞かされた健は、胸の奥にしまっていた疑問を思い出します。あの判決は今も有効なのか。あの六か月について、国に補償を求められるのか。すでに刑を終えた人にとって、法律が後から変わることは何を意味するのでしょうか。
2 — 法的な問い
この物語の中心にある問いは、姦通罪の有罪判決が確定し、刑期も終えた人が、同罪を違憲とする決定の後に再審を請求できるか、そして再審で無罪となった場合、服役期間に対する刑事補償を受けられるか、ということです。
3 — 韓国法が定めること
韓国憲法裁判所は2015年2月26日、姦通罪を定めた規定について違憲と判断しました。成人同士が自発的に行う性行為は、原則として個人の自由と私生活に属する領域です。重大な法益への明白な危険がある場合に限って刑罰を最後の手段として用いるべきであり、性道徳に関わる私的な生活に国家が刑罰をもって介入することは、性的自己決定権やプライバシーを侵害するとしました。
憲法裁判所は、姦通罪の規定が過剰禁止の原則に反し、国民の性的自己決定権および私生活の秘密と自由を侵害すると判断しました(2015年2月26日決定、2009憲バ17事件など)。
違憲となった刑罰法規の効力と、過去の有罪判決への救済については、韓国の憲法裁判所法が重要です。
憲法裁判所法第47条第3項は、刑罰に関する法律または条項が違憲とされた場合、その効力は原則として遡及的に失われると定めています。ただし、それ以前に合憲決定があった場合は、その決定の翌日まで遡るという例外があります。
同条第4項は、違憲とされた法律または条項に基づく有罪の確定判決について、再審を請求できると定めています。
姦通罪については、2008年10月30日に合憲判断がありました。そのため、再審請求の可否を考える際には、判決が確定した時期が重要な分岐点になります。
- 有罪判決が2008年10月31日以降に確定した場合、違憲決定の遡及効が及び、再審を請求できる可能性があります。
- 有罪判決が2008年10月30日以前に確定した場合、合憲判断があった時点より前にまで効力が遡らないため、違憲決定を理由とする再審は認められないと考えられます。
- 再審で無罪判決を得た人は、刑事補償及び名誉回復に関する法律に基づき、拘束されていた期間について刑事補償を請求できる場合があります。
補償は自動的に支払われるものではありません。再審で無罪判決を得ることが前提となり、金額も拘束期間などを踏まえて決められます。
4 — 韓国の裁判所の考え方
韓国の裁判所がこの種の問題を扱う際には、まず違憲判断の対象となった刑罰規定が、当人の有罪判決の根拠になっていたかを確認します。そのうえで、憲法裁判所法が定める遡及の範囲と、以前の合憲判断があった場合の例外を適用します。
刑罰法規が違憲とされても、過去の確定判決がすべて一律に取り消されるわけではありません。違憲決定の遡及範囲に入る判決かどうかを、確定時期に照らして判断する必要があります。
また、再審を請求できることと、直ちに補償を受けられることは別の段階です。再審で無罪判決が確定した後、拘束されていた事実や期間を踏まえ、刑事補償の請求を検討することになります。つまり、裁判所の判断は「違憲だった」という一点だけで決まるのではなく、判決の確定時期、再審の結果、拘束の実態を順に確認する仕組みです。
5 — 健の場合に当てはめる
健の有罪判決は、2008年10月30日の合憲判断より後の2010年に確定していたとします。この事実を出発点に、法的な道筋をたどります。
- 有罪判決の根拠を確認する。 健の判決が姦通罪の規定に基づくものであれば、違憲とされた刑罰規定が判決の根拠になっていたことになります。
- 判決の確定時期を確認する。 健の判決は2010年に確定しています。これは2008年10月31日以降なので、違憲決定の遡及効が及ぶ範囲に入る可能性があります。
- 再審を請求する。 健は、違憲とされた刑罰規定に基づく確定判決について、再審を申し立てることができます。違憲決定だけで元の判決が自動的に消えるわけではなく、再審の手続を経る必要があります。
- 再審で無罪となった場合、補償を検討する。 健が再審で無罪判決を得れば、六か月の服役期間について刑事補償を請求できる可能性があります。実際の金額や認容の範囲は、法律上の基準と個別の事情によって判断されます。
一方、健の判決が2008年10月30日以前に確定していたなら、違憲決定の遡及効は原則としてその判決に及びません。その場合、ここで述べた違憲決定を根拠とする再審の道は閉ざされると考えられます。重要なのは、行為がいつあったかだけでなく、有罪判決がいつ確定したかです。
6 — 結論:健に何が起きたのか、同じ立場の人は何をすべきか
健は、2010年に確定した有罪判決を理由に再審を請求できる立場にありました。再審で無罪判決を得たなら、服役した六か月について刑事補償を求める道も開かれます。ただし、それは違憲決定によって自動的に実現するものではなく、再審の申立てと、その後の無罪判決が必要です。
同じような状況にある人は、次の点を確認してください。
- 確定判決の日付を調べる。 判決書や刑事記録で、判決が確定した日が2008年10月31日以降かどうかを確認します。
- 判決書と服役記録を保管する。 再審では有罪判決の根拠を、補償請求では拘束期間を確認できる資料が重要になります。
- 早めに弁護士へ相談する。 再審の要件や補償請求の手続・期限は個別の事情に左右されるため、記録を持参して具体的な見通しを確認してください。
法律が違憲とされたことは、過去の苦痛をそのまま取り消すものではありません。それでも、判決の確定時期が条件を満たす人には、再審を通じて誤った有罪判決を問い直し、服役への補償を求める道が残されています。




















